公開日 2021年1月3日 最終更新日 2023年02月07日
治験に参加したことで受け取る報酬は、金額や受け取った方の収入状況に応じて申告・納税手続きが必要になることもあります。
本記事では、治験の報酬にかかる税金の種類と、申告手続きが必要になるケースについて解説します。
治験の報酬は所得税・住民税の課税対象
所得税と住民税は、その年(1月1日〜12月31日)に得た所得に対して課される税金で、一部例外を除き、お金を得た方法に関係なく課税対象となります。
治験の報酬に対する税金の額は確定申告で計算し、申告書の提出と納税手続きを行います。
確定申告手続きを行う期間は決まっているため、治験報酬を受け取った直後に税金の支払いを済ませることはできません。
また所得税は国税、住民税は地方税なので、税金を取り扱っている場所が違いますし、報酬の額など、条件次第で申告書の提出方法や提出先が変わるのでご注意ください。
治験の報酬について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
所得税の計算方法
所得税は、年間の所得に対して課される税金ですので、治験報酬の額だけで所得税の納税額を計算することはできません。
所得税の申告期限と納付のしかた
所得税の申告は、所得が発生した翌年2月16日から3月15日の間に手続きしなければなりません。
たとえば、令和4年に治験の報酬を受け取った方の場合、令和5年2月16日から3月15日の期間中に申告書を提出することになります。
申告書を提出する場所は、申告をする時点で住んでいる場所を管轄する税務署です。
市内に複数の税務署が存在する地域もあるため、提出先の税務署は事前に確認してください。
所得税の納付期限は申告期限と同日ですが、申告書を提出しても税務署から納付書は送られてきません。
期限までに支払わないとペナルティが発生しますので、申告書を提出したタイミングで納税を済ませた方がいいでしょう。
治験の報酬の所得区分は『雑所得』
所得税には10種類の所得区分があり、収入を得る方法によって所得金額の計算方法が異なります。
治験の報酬は「雑所得」に分類され、総収入金額から必要経費を差し引いた金額が雑所得です。
雑所得は、他の所得区分に当てはまらなかった所得が分類される区分であり、仮想通貨取引による利益や副業の収入などが雑所得に該当します。治験と副業については以下の記事をご覧ください。
公的年金も雑所得に分類されますが、法律で別途計算方法が定められていますので、治験の報酬とは分けて所得金額を計算することになります。
治験の報酬を得た場合、次の書類等が税金の計算で必要となりますので、破棄せずに保管しておいてください。
<税金の計算で必要になる治験の報酬に関する書類等>
総収入金額 | ◇治験の報酬
・医療機関によっては支払調書が送られてきます。 ・銀行振り込みの場合、通帳の記帳で金額を確認できます。 ・手渡し支払いの場合には、日付・金額・支払者を確認できるようにしてください。 |
必要経費 | ◇治験を受けるために医療機関への移動に使用した「交通費」
◇「初診料」「再診料」など医療機関の窓口で負担するもの ・タクシー会社や医療機関から発行される領収書は保管してください。 ・領収書がないものは、支払った日付や金額のメモを残しておきましょう。 |
年間の所得が多い人ほど税負担は重くなる
所得税の計算は、次の流れに沿って行います。
<所得税の計算の流れ>
- 所得区分ごとに所得金額を計算
- それぞれの所得金額を合計(総所得金額)
- 所得控除額を計算
- 総所得金額から所得控除額を差し引いて課税所得金額を算出
- 課税所得金額に税率を乗じて所得税額を算出
- 所得税額から税額控除額を差し引く
- 源泉徴収税額を差し引き、所得税の納税(還付)額を算出
同じ治験の報酬額を受け取った場合でも、年間トータルの所得の大小によって課される所得税の額は変わってきます。
会社からの給与など、治験以外の収入がある方は、治験報酬を受け取ったことで税負担が重くなる可能性があるので要注意です。
所得税では、最初に給与所得や事業所得、雑所得など、その年に発生した収入に対する所得金額を計算し、合計金額(総所得金額)を算出します。
所得区分ごとに所得金額の計算方法は違いますので、所得区分誤りに注意してください。
所得控除額とは、社会保険料控除や医療費控除、基礎控除など、総所得金額から控除することができる金額です。
課税所得金額は、総所得金額から所得控除額を差し引いた金額をいい、課税所得金額の大小で所得税の税率が決まります。
課税所得金額に税率を乗じて所得税額を算出しましたら、税額控除額(住宅ローン控除など)を差し引きます。
給与所得者は、勤務先等で税金が天引きされている場合が多いですが、確定申告をする方に源泉徴収税額がある場合、所得税から差し引いてください。
所得金額から源泉徴収税額を控除した額が、確定申告で納める金額となります。
(令和19年までは復興特別所得税も課されます。)
なお、所得金額よりも源泉徴収税額の方が大きい場合には、税金を納め過ぎていたことになりますので、還付金として差額が戻ってきます。
確定申告手続きが不要になるケース
確定申告が必要になるのは、所得税の支払いが発生する場合のみで、課税所得金額がゼロの方は申告手続きをしなくても問題ありません。
所得控除には基礎控除額48万円がありますので、総所得金額が48万円以下であれば、課税対象金額はゼロになります。
その年に得た所得が治験の報酬のみであれば、その金額が48万円以内であれば所得税は課されません。
また、治験の報酬以外の収入がある方でも、年末調整が完了している場合には、給与所得以外の所得が20万円以下であれば申告不要です。
公的年金等の収入がある方についても、年金が400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下のケースでは確定申告が不要となります。
住民税の計算方法
住民税は地方に支払う税金(地方税)なので、お住まいの市区町村で手続きすることになります。
所得税とは取り扱いが異なる部分も多いですが、所得税の確定申告をしている場合、住民税の申告手続きを省略できることもあります。
住民税の申告期限と納付のしかた
住民税の申告期限は翌年3月15日までなので、所得税の申告期限と同じです。
一方、納付のしかたは所得税とは違い、「普通徴収」と「特別徴収」のいずれかの方法で支払うことになります。
普通徴収とは、市区町村から送られてくる住民税納付書で住民税を支払う方法です。
勤務先の会社に給与以外の収入の存在を知られたくない場合は、普通徴収を選択してください。
特別徴収は、勤務している会社で毎月の給料から天引きされる方法です。
給与から税金を天引きするため、銀行などに税金を支払いに行く必要がなくなりますが、治験報酬の額が大きいと、天引きされる額も多くなるので気を付けてください。
住民税の税率は一律10%
住民税の計算の流れは、基本的に所得税と同じです。
ただ所得税とは違い、地方税の税率は一律10%と決まっているため、他の所得がある場合でも、治験報酬に対する住民税の額は基本的に同じです。
所得税の申告書を提出している場合、住民税の申告は不要
所得税の確定申告書を提出すると、市区町村に税務署から申告データが送られます。
市区町村は受け取ったデータをベースに住民税の額を算出しますので、住民税の申告書を別途提出する必要がなくなります。
所得税の申告書を提出しない場合には、市区町村に申告データがありませんので、役所で住民税の申告書を提出してください。
ケース別:申告手続きの有無の判定方法
治験の報酬を受け取った年の収入状況で、所得税と住民税の申告手続きが必要かどうかは変わってきます。
そこで5種類のケースを紹介しますので、ご自身が該当するケースを確認していただき、申告手続きが必要になるか判断してください。
ケース1:治験の報酬以外に収入がない人
治験の報酬以外に収入がない方は、報酬の額が所得税の基礎控除額を超えるかが、申告するかの判断基準となります。
所得税であれば、治験の報酬が基礎控除額48万円に収まれば税額は算出されませんので、確定申告手続きは不要です。
また治験報酬が基礎控除額を超えた場合でも、基礎控除以外に差し引ける控除があれば、無税になるケースもありますので、個々に控除できる種類を確認してください。
ケース2:年末調整をしていない給与所得者(会社員・アルバイト等)
年末調整とは、会社などの勤務先で税金を精算する手続きをいい、年末調整をしていない給与所得者は、ご自身で課税所得金額が発生するかを確認しなければなりません。
給与所得は、次の計算式で算出することができます。
<給与所得の計算式>
給与収入―給与所得控除額=給与所得
給与所得控除額は最低55万円ありますので、基礎控除額48万円と合計すると年間の収入金額が103万円までであれば、所得税は課されません。
しかし、給与所得とは別に治験の報酬を受け取っている場合、雑所得の金額も含めて課税所得金額が発生するかを判断する必要があります。
課税所得金額が発生するケースにおいては、確定申告書の提出だけでなく納税も必要になる可能性が高いです。
また、治験報酬を受け取った方が家族の扶養の場合、所得金額が48万円を超えると、扶養控除の対象から外れますのでご注意ください。
住民税の手続きは、税務署に申告書を提出すれば省略できますので、報酬を受け取った際は所得税が発生するか計算してください。
ケース3:年末調整済の給与所得者(会社員・公務員等)
年末調整済の方は、報酬の額によって申告の有無が変わります。
会社員など、会社から給与をもらっている方の多くは、勤務先で年末調整により税金の精算が行われていますので、申告手続きは原則不要です。
しかし、治験による報酬を受け取った際は、税金の再計算をしなければなりませんので、確定申告が必要になります。
一方で、治験報酬を受け取った場合でも給与所得以外の金額が20万円以下であれば、確定申告が不要になる「申告不要制度」を適用することができます。
申告不要制度を利用する際の注意点として、仕事やアルバイトを掛け持ちしていて2か所以上から給与をもらっている場合や、給与収入の合計が2,000万円を超える場合は適用対象外です。
また、住民税には所得20万以下の申告不要制度はありませんので、所得税の申告が不要になったとしても、住民税の申告は必要となります。
ケース4:確定申告が必要な人(自営業・個人事業主等)
自営業や個人事業主、不動産の賃貸収入がある方は、確定申告が必要ですので、毎年の申告内容に治験の報酬も含めて所得税の計算を行うことになります。
税務署に所得税の申告書を提出すれば、市区町村へ税務署が申告データを送りますので、別途住民税の申告書を提出する必要はありません。
ケース5:年金受給者
年金を受給している方は、原則として確定申告が必要です。
公的年金も治験報酬と同じ雑所得の対象ですが、所得金額の計算は別々で行うことになります。
一方で、年金受給者の方にも申告不要制度は存在します。
公的年金の収入が400万円以下で、他の所得金額が20万円以下に該当する方は、所得税の申告は不要です。
ただし、申告不要制度は所得税のみの制度ですので、所得税の申告が不要になったとしても、住民税の申告は必要となる点には注意してください。
治験で受け取った報酬を申告しなかったらどうなるの?
確定申告手続きをしなければいけないのは、納税義務がある人です。
納税義務とは、確定申告で支払う税金が発生する人をいい、手続きをしていないとペナルティ(加算税・延滞税)が課されます。
税務調査は、5年(最長7年)前までの申告まで遡って実施することができるので、毎年治験を受けている方が申告していない場合、複数年分の申告漏れを指摘される可能性があるので要注意です。
なお納税額がゼロであれば申告義務が発生しませんし、所得税を納めている人でも、年末調整で税金の精算が完了している場合には、ペナルティの対象にはなりません。
還付申告手続きを行うかは任意ですが、申告しないと税金は還付されませんし、申告する際は治験の報酬も含めて税金計算をしてください。
まとめ
治験の報酬は、正確には「負担軽減費」や「治験協力費」などと呼ばれますが、受け取った方の収入として取り扱われます。
受け取った報酬が少額であれば申告手続きが不要になるケースもありますが、治験報酬が多い場合や、他に収入がある方は申告手続きが必要になる可能性が高いです。
無申告のまま放置していると税務調査が行われる可能性がありますし、申告漏れを指摘されれば余計な税金を支払うことになりかねませんので、申告が必要になる場合は期限までに手続きを済ませてください。