治験は危険ですか?応募前に知りたい副作用のリスクと安心材料

公開日 2021年1月15日 最終更新日 2022年05月07日

「治験は危険」という認識を持つ人は珍しくありません。

しかし、治験のリスクを正しく理解している人は、残念ながらごく少数です。

  • 治験には死亡事故が付きものである
  • 治験薬は効果が「未知数」な薬だ
  • 薬の副作用は危険で悪いもの

このような認識があるなら、本記事はお役に立てるはずです。誤解されがちな部分について、正確な情報をご説明します。

治験による死亡事故はある?

 

2019年7月、治験を終えた男性が電柱から飛び降り、健康成人を対象とした治験では日本初となる死亡事故が起こりました。

使用された治験薬と似た薬に自殺企図(自殺を企てること)の副作用があったため、厚生労働省は「治験と死亡事故との因果関係を否定できない」と判断。治験による国内初の死亡事故として扱われることになりました。

参加者の男性は治験を終えた当日に再来院し、入院観察期間中に不調があったことを訴えていたようです。その際には容態が安定しており、医療機関側は経過観察(定期的な状態の確認)を決断したのですが、翌日に電柱から飛び降りて亡くなりました。




治験だから危険というわけではない

国内外を問わず、治験は過去何十年も行われています。にもかかわらず、ニュースメディアが「治験参加者に重大な事故が起こりました」と頻繁に報じることはありません。

2019年の一件は、他に例のない深刻な事故だからこそ大きく報じられたのです。

また、少し視野を広げると別の事実が目に入ります。

平成19~23年度における、一般用医薬品の副作用症例は1,220件。

死亡症例は24件。後遺症が残った症例は15件。

これは厚生労働省が公表する「一般用医薬品による重篤な副作用について」という報告に記述されたデータです。ご存知の通り、一般用医薬品とは処方箋がなくても薬局やドラッグストアで入手できる薬のことです。

死亡症例のうち半分に相当する12件は、かぜ薬によるものでした。つまり、身近にある薬ですら命を落とす可能性はあるのです。

薬は治療の可能性を広げる選択肢

先ほどの例は、薬の恐ろしさを伝えるために挙げたわけではありません。

「どんな薬にも副作用のリスクがあり、治験薬だから危険というわけではない」という事実を知っていただき、フェアな状態になったところへ以下のメッセージを届けたかったのです。

治験を経て流通する薬のおかげで助かる命がある。

治験薬にかかわらず、一般に流通する薬でさえ事故の原因になりますが、それ以上に薬は多くの命を救ってきました。また治験の実施時は4つの原則が遵守され、治験参加者の安全が最大限配慮されるほか、副作用があれば適切に補償されます。

そして、薬の安全性を確認しないまま、いきなり人を対象に治験が実施されることはありません。




治験薬は非臨床試験を通過した薬

治験の前段階として、ねずみや犬などの動物を対象とした非臨床試験と呼ばれる検証が行われます。

創薬の過程

また、詳細は後述しますが、日本の治験はジェネリック医薬品(既存の薬と同成分の薬)を使用するケースが過半数です。この場合、実質的には「有効性や安全性が確認された利用実績のある医薬品」を使うため、ネガティブな想像として挙がりやすい「効果が未知数な薬を使う」といった事態にはなりません。

高額な謝礼金は拘束による負担の対価

 

「でも、治験の謝礼金が高額なのは危険だからでは?」といった疑問が浮かぶかもしれません。

実はこれも誤認識です。治験の謝礼金が高額になる理由は、拘束時間の長さと行動制限による負担が関係しています。

入院タイプの治験は、謝礼金の相場価格が1泊あたり15,000~30,000円程度です。金額だけ見れば高額であるものの、治験参加中は24時間拘束されることとなり、以下のような制限が設けられます。

  • 外出や面会ができない
  • 決まった時間に診察や検査がある
  • 入院中の食事は完食しなければならない
  • 治験内容により入浴(シャワー)不可の日がある

治験薬の効果を正しく評価するために、上記をはじめとする制限が治験参加中に課せられます。これらの負担があることを考慮すれば、たとえ24時間の拘束に30,000円(1時間あたり1,250円)が支払われると仮定しても、不自然ではないとイメージできるのではないでしょうか。




想定される効果・副作用は参加前に説明される

参加前には期待される効果、および起こり得る副作用について説明があります。これをインフォームド・コンセント(同意説明)と言います。

説明を聞いたあとに不参加を選ぶこともできるため、最大の不安要素である「副作用」の可能性にリスクを感じた場合には、不参加を選んでも問題ありません。治験期間中の途中辞退も可能です。

また、治験中に新たな副作用が判明した場合には、医師から治験参加者へ知らされることになっています。

被験者の損失は適切に補償される

治験期間中、治験参加者に有害事象(好ましくない現象)が起こった場合には、医療スタッフによる適切な処置が行われます。

また、製薬企業や治験実施医療機関に過失がなかったとしても、治験により参加者に不利益が生じた場合には医療費や医療手当などが補填されます。

ただし参加者自身の故意、または注意義務の違反により健康被害が生じたケースでは、補償の対象外となる可能性があることに留意してください。

リスクが不安な初心者におすすめの治験

薬は新薬(先発医薬品)とジェネリック医薬品(後発医薬品)に大別されます。

医薬品の区分 概要
新薬(先発医薬品) 従来にはない薬効成分を持つ、新たに開発された医薬品
ジェネリック医薬品(後発医薬品) 特許期間を終えた新薬と同じ成分で作られた医薬品

後者のジェネリック医薬品は、すでに処方・販売されている薬と同じ成分でつくられた医薬品です。ジェネリック医薬品の元となる新薬は、特許期間(実質15年程度)に何万~何十万もの人に使用されてきた薬であるため、「すでに安全性が確認されている薬」と言っても良いでしょう。

新薬の治験も決して危険ではありませんが、ジェネリック医薬品の治験はより危険性が抑えられていると判断できます。

なぜジェネリック医薬品は治験を実施するの?

ジェネリック医薬品は一般流通している薬と同成分であるため、なぜ治験を実施するのか不思議に感じるかもしれません。

実のところ、効能や用法用量は元となる薬と変わらないのですが、形状・色・添加物は変更されます。そのため、体内の吸収や排泄作用に違いが見られる可能性があり、それらを検証するために必ず治験を行わなければならないのです。

検証の内容としては、既存の薬とジェネリック医薬品を比較し、血中濃度の推移に統計学的な差がないか確認します。これを「生物学的同等性(BE)試験」と呼び、日本で実施される健康成人を対象とした入院治験は、過半数がこの試験に分類されます。

▶︎▷ジェネリック医薬品とは

治験時に発覚した副作用から薬が生まれる?

治験の副作用をより深く理解していただくため、補足的に本章を設けました。

「治験時に副作用が発覚した」と聞けば、危険なイメージを持ってしまいます。しかし、副作用はネガティブな効果を指す言葉ではありません。

開発中の薬に確認された副作用が有用であるため、それを主作用として応用するケースもあるのです。なお、主作用と副作用はそれぞれ以下のような意味を持つ言葉です。

  • 主作用:その薬に期待する効果
  • 副作用:その薬に期待する効果以外の働き

例えば、発毛剤は副作用から生まれた薬です。

発毛剤は血圧を下げる薬から誕生

米国企業から発売された高血圧症治療剤「ロニテン」に、多毛・発毛の副作用が見られました。副作用を調査したところ、血圧降下作用のあるミノキシジルという成分に発毛効果が確認されたのです。

ミノキシジルは脱毛症状の治療に応用されることとなり、1988年に当時唯一となる医薬品としての発毛剤が誕生しました。皆さんもご存じの「リアップ」もミノキシジルの効果を利用した発毛剤です。

睡眠改善薬やED治療薬もきっかけは副作用

アレルギー症状を緩和する「ジフェンヒドラミン」には、服用後に眠気を催す副作用がありました。これを利用して生まれた「ドリエル」は、睡眠改善薬としてドラッグストアで販売されています。

また、ED治療薬として知られる「バイアグラ」の誕生は、効果の乏しかった狭心症の薬を治験参加者が返却したがらず、理由を聞いたところ男性機能の改善が確認されたことがきっかけです。

ある状況においては副作用となる働きが、別の状況に役立ち主作用となる事例は珍しくありません。場合によっては、既存の薬を補う大発見となるケースもあるのです。




参加の決断は説明を聞いてからでも大丈夫です

「治験薬だから副作用がある」「危険だから謝礼金が高額である」といった意見は、どちらも視野を狭めて治験を捉えてしまっている典型例です。ここまで読み進めてくださった方には、世間の治験に対する評価がやや偏っていることをご理解いただけたのではないでしょうか?

とはいえ、特に初参加を検討している段階は不安になるものです。

そんなときには、とりあえず説明を聞いてみることをおすすめします。記事内でも述べたように、治験の参加前には想定される効果や副作用の内容、それらが発生する確率について説明が行われます。

説明を受けて不安が強まったなら、我慢して治験に参加する必要はありません。辞退は参加志望者にとって尊重されるべき権利であり、当然のこと医師に非難されることもないのです。

現状、日本は治験の参加者が集まりづらく、これは日本国内の薬の開発を遅らせる一因となっています。「説明を聞いて危険を感じたら辞退しても良い」と気軽に捉えて、治験への参加に前向きなイメージを抱いていただけたら幸いです。